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福岡高等裁判所 昭和48年(ネ)567号 判決

控訴人

石井禮吉

右訴訟代理人

古賀幸太郎

被控訴人

谷口仲四

右訴訟代理人

野方寛

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し、別紙目録記載の建物を収去して、原判決別紙目録記載の仮換地部分を明渡し、且つ昭和四五年一月一日以降右明渡済みに至るまで一ケ年につき金一万一、一五〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

本判決は控訴人において金五〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実《省略》

理由

控訴人が原判決別紙目録記載の従前地の所有者であること、及び同土地につき昭和二五年土地区画整理事業により同目録記載の仮換地が指定されたことは、被控訴人において明らかに争わず、被控訴人が右仮換地中同目録記載の161.79平方メートル(原判決別紙図面イ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で結んだ範囲、以下本件仮換地部分と称する。)の地上に、別紙目録記載の建物(以下本件建物と称する。)を所有し、右仮換地部分を占有していることは、弁論の全趣旨に照らし、当事者間に争いがない。

控訴人は、未だ右仮換地指定のない昭和二一年二月靏田与造に右同一土地部分を建物所有の目的で賃貸したことを自認したうえ、仮換地指定後、同訴外人や被控訴人に対し仮換地につき賃借部分の指定がないことを理由に、被控訴人に本件仮換地部分の使用収益権がない旨主張するところ、従前地の一部を賃借する者が、土地区画整理法第八五条の定める権利申告の手続をし、土地区画整理事業施行者から仮に使用収益し得べき部分の指定をうけない限り、現実に仮換地を使用収益できないことは控訴人主張のとおりである。

しかし、控訴人は、前記のとおり靏田与造に対する土地賃貸契約の存続を前提に、昭和四一年一二月二日付同四四年一二月末日を期限とする合意解除、予備的に、無断増築を理由とする昭和四二年二月一一日付契約解除の主張をしているので、少くともそれまでの間、仮換地指定後も引き続き、偶々仮換地に含まれた従前の契約土地である本件仮換地部分の賃貸を続けたことを自認するものと解せざるを得ず、このように、従前地賃貸人が仮換地指定後、仮換地に含まれた従前の契約土地部分の賃貸を継続する場合、仮換地につき新たな賃貸借契約が成立したときに準じ、賃借人は、区画整理事業施行者から使用収益部分の指定をうけなくても、賃貸人との関係では右賃借権の主張をなし得ると解するのが相当である。

しかして、被控訴人は、靏田与造から本件建物を買受けることによりその敷地である本件仮換地部分賃借権の譲渡をうけ、その後控訴人に昭和四三年と同四四年の年間賃料各一万一、一五〇円を支払い、賃貸人たる控訴人から右賃借権譲渡の承諾を得た旨主張し、控訴人はこれを抗争するところ、仮に前記控訴人の靏田与造との合意解除、或いは無断増築を理由とする契約解除の主張が認められないとしても、賃借権の譲渡は賃貸人の承諾がない限り賃貸人に対抗し得ないのであるから、以下この争点につき判断するに、〈証拠略〉を総合すると、靏田与造は、昭和四三年五、六月頃千葉県方面に転出するに当り、当時所有し居住していた本件建物を、当初敷地賃貸人である控訴人に売却しようとしたが、控訴人が応じなかつたことから、同年六月三〇日頃、控訴人の了解を得ることなく、これを代金八〇万円で被控訴人に売却したこと(但し、代金の一部が分割支払いであり、その所有権移転登記手続がなされたのは昭和四四年三月一七日)、被控訴人は、右建物買受の直後頃、明けて貰う土地だから入居しないで呉れという控訴人側の要請を退け、本件建物に入居したが、控訴人側は、当時被控訴人を建物の賃借人であると聞かされ、後記昭和四五年末被控訴人からの土地賃料供託通知書を受領するまで、その建物買受人であることを知らなかつたこと、本件の土地賃料については、被控訴人が本件建物に入居後の昭和四三年と同四四年の各年末に、被控訴人の妻谷口恵美子がいずれも靏田与造の使いとして、各年額一万一、一五〇円ずつを控訴人の長男石井久男の許に届け、同人もこれを靏田与造からの支払金として、靏田与造宛の領収書(乙第一、二号証)を交付し、受領したこと、なお、被控訴人は、その後昭和四五年と同四六年の各年末に、予め控訴人に提供することなく、土地賃料としてそれぞれ右金額を福岡法務局大牟田出張所に供託したこと(乙第三、四号証)、以上のように認めることができ、〈排斥証拠略〉他に右認定を覆すに足る証拠は存しない。

ところで、賃借地上の建物の売買には、特別の事情がない限り敷地賃借権の譲渡ないし転貸を伴うと解するのが相当であるけれども、右認定事実によれば、被控訴人が本件建物を買受け、入居後、妻谷口恵美子を通じ控訴人に支払つた昭和四三年、同四四年の各土地賃料は、一応被控訴人の出捐によることが推認されるとはいえ、被控訴人自らを土地賃借人として支払われたものではなく、むしろ、控訴人側としては、当時被控訴人が建物の譲受人、ひいて土地賃借権の承継者であることを知らないまま、従前の賃借人靏田与造からの支払いとして受領しているのであり、領収証も(右谷口恵美子が自分宛の領収証をくれるよう申し入れたが拒絶して)靏田与造宛に作成、交付しているのであるから、右賃料支払いの事実だけから、本件土地賃借権の譲渡ないし転貸に対する控訴人の承諾があつたと認めるのは困難といわざるを得ず、本件の全資料を検討しても、他に右控訴人の承諾を認めるに足りる証拠は存しない。

してみると、被控訴人は、控訴人に対抗し得る本件仮換地部分の占有権限を有しないことになり、爾余の争点につき判断するまでもなく、本件建物の収去、敷地である本件仮換地部分の明渡、並びに昭和四五年一月一日以降右明渡済みに至るまで一ケ年につき一万一、一五〇円の割合による賃料相当の損害金支払いを求める控訴人の本訴請求は、その理由がある。

よつて、右と趣旨を異にする原判決を取消し、控訴人の本訴請求を認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(亀川清 美山和義 田中貞和)

〈目録省略〉

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